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3 慶應SDM用語辞典「デザイン」

次に「デザイン」について述べよう。

慶應SDMでいうデザインとは、新たに何らかのシステムを創造し、そのアーキテクチャを明確化し、その全体から部分までを適切に作り上げるという営み全体を指す。対象とするシステムは、技術システムから社会システムまで様々である。意匠デザインも、ハードウエアの設計も、ソフトウエアの設計も、サービスの設計も含む。ここでいうサービスは広い意味である。政策の提言も、コンフリクトの和解案の提案も、問題解決方法論の具現化も、社会のモデリングも、そして、技術システムの使い方のデザインも、みんなふくめてサービスシステムのデザインである。つまり、何かを新たに構築する事は、すべてデザインである。そのような、広い意味でデザインという単語を定義している。

ところで、「デザイン」という言葉に、私は揺れ動く複雑な思いがある。
大学生時代、美術部にいたころには「アート」に対比する言葉として「デザイン」を卑下していた覚えがある。アートは人に受けることなど気にしない純粋な自己表現であるのに対し、デザインとは商業主義のにおいのする邪道だ、という感覚である。それはサイエンス(科学)に対するエンジニアリング(工学)批判のようでもあった。サイエンスは純粋に真理の探求を目指す。エンジニアリングは一般に受ける事を目指す。この文脈から捉えると、サイエンスとエンジニアリング、アートとデザインは相似な構造をしている(下の図の上下の軸)。
このため、当時の私にとって、アートは工学の道を選んだ自分の心の平穏を維持するためのカウンターパートという面があった。つまり、金儲けのために行う(工学やデザインのような)行為は邪道だ(逆に自分の心に対してピュアなサイエンスやアートは美しい)という、ある種潔癖な自分がそこにはいた。
しかし、その後、メーカー勤務を9年と、理工学部教員としての生活を13年、慶應SDMで5年。これらの日々とは、工学や工業は、金儲けのためのものというよりも人々の役に立つもの、という思いで過ごした日々であった。言い換えれば、金儲けは人々の幸福のための手段。つまり、工学的にものごとをデザイン(設計)するということは、人々の幸福に貢献する手段であり、役に立つという視点の欠如したアートやサイエンスよりも有益である、ともいえる。
違う見方もできる。下図の横軸を見て頂きたい。サイエンスとアートが対極にあり、エンジニアリングやデザインは有益性をベースに両者を橋渡しするものと捉えることもできる。サイエンスは再現可能な法則の発見を目指す。主観の入り込む余地はない。一方、アートは他とは異なる自己表現の究極を目指す。再現性は目指さない。まさに対極である。エンジニアリングやデザインは、サイエンスが得た知見を利用しながらも、再現可能な発見ではなくオリジナルな発明を目指す。つまり、アートの要素を含んでいる。この観点からは、どちらかに偏らないバランスのよい領域であるということもできる。
そんなわけで、今となってはどの分野も一理あると思う。サイエンスとアートを追求する事は、ある意味、まわりの目など気にせず、心の欲するところに従う、自分に対して純粋な営みである。しかし、自分勝手でもある。その成果が社会にどう影響するかという事に対しては無頓着である。一方、工学とデザインは、社会の役に立つ代わりに、社会からの独立を曖昧にし、社会に迎合する危険をはらむ。結局はバランスなのである。
そして、デザインとは、主観と客観のバランス、サイエンスとアートのバランス、発見と発明のバランス、純粋な追求と社会への貢献のバランスを取って、使用者の便益を考慮しながら新しいものを創造する営みなのである。よって、人間のあらゆる営みは生活に資する以上デザインであると言える。慶應SDMでは、そのような広い意味でのデザインを学問体系として探求しているのである。

ちなみに、慶應義塾150周年のころ(慶應SDM設立当初)によくいわれていた「独立と協生という2焦点をもつ楕円」をこの図の上に描くとすると下半分と上半分に焦点を持つ楕円となる。福澤先生のいわれていたサイヤンス(science、実学)はこの図全体を包含する広義の科学であると考えられる。

デザインとは

(注)ここまでの記述では、エンジニアリング=工学、と捉え、エンジニアリングやデザインはアートの要素を含んでいる、と考えた。これらは私の考えだが、辞書による定義は少し異なる。このこととについては、「システムズエンジニアリング」の項で議論する事にする。
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