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大転換時代を生き抜くためには?



大転換時代を生き抜くためには? という寄稿記事が日本政策投資銀行の季刊DBJ No. 18(2013年1月号)に掲載された。以下、全文。

絡み合う大量の糸のようにあらゆる問題が相互作用する現代

 現代は大転換時代である。歴史を俯瞰的に捉えれば、今は、農耕革命、産業革命に匹敵する、情報革命という大転換の夜明けである。
 産業の中核は、ものづくりからことづくりやサービスシステムの構築へと大きく転換している。政治は、イデオロギー対立や政治家と官僚の関係といった単純図式から、多様なステークホルダの多様な価値が絡み合う複合的価値共創へと転換しつつある。外交・防衛においても、国家間パワーバランスの変化に伴い、全体理念・ビジョンと戦略・戦術・戦法の関係を俯瞰的視点から再構築すべき時代である。追いつけ追い越せの時代には有効であったあらゆる組織の縦割り構造を、企業、省庁から学校、病院、コミュニティーまで、再構築すべき時代である。TPPの議論が象徴的に示すように、産業の競争と保護の関係をも見直すべき時である。ブータンの例を挙げるまでもなく、経済成長のみならず心の豊かさや幸福を指標として経済活動を俯瞰すべき時である。災害対策、南北問題、地球環境問題、宗教問題など、あらゆるイシューを超国家的な視点から見直すべきである。
 これらは皆、インターネットに端を発するネットワークの時代、ロングテールの時代、スモールワールドの時代、草の根がつながるボトムアップの時代、社会貢献・社会企業・利他の時代、といった現代的キーワードが呼応し合うことから明らかなように、多様な者が多様につながることのできる、いや、つながらざるを得ないがゆえに起き始めているパラダイムシフトである。すなわち、あらゆるものごとが大規模・複雑化し、互いに影響しあうために、要素だけを取り出して問題解決することはもはやできない時代である。あらゆるイシューが、複雑にもつれ合った大量の糸のように巨大なネットワーク構造になって関係し合うグローバル時代である。
 このような時代への対応が、日本は周回遅れに陥っていると言われる。前述のように、旧来型の縦割り組織や効率追求型の価値観が制度疲労に陥り、一昔前の成功体験が次の成功を阻害するイノベーションのジレンマに直面している。

「システム」「デザイン」「マネジメント」の視点から俯瞰的問題解決を

 どうすれば、周回遅れの危機を乗り超え、国際競争力を回復できるのだろうか。
 答えは簡単である。多様なステークホルダが力を合わせ、ものごとの関係性を多様な視点から俯瞰的に捉え、混沌を整理し、相互理解し、理念・ビジョンのレベルから要素のレベルまで、整合的かつイノベーティブな問題解決策・競争力強化策を新たに構築してゆけばよい。すなわち、真の協働である。
 しかし、言うは易し、行うは難し、である。企業や官僚の組織からコミュニティーまで、トップからボトムまで、あらゆる組織の構造と人々の意識を大転換させなければ、これを実現することはできない。
真の協働に基づく社会構造・意識構造の大転換を実現するためのコアとなるものは何であろうか。それは、「方法論」と「場」の構築と共有である。
 実践者が「方法論」なしに大転換を叫んでも、総合的・戦略的な構造転換は不可能である。また、学術界が「場」なしに「方法論」を描いても、学問の塔に閉じこもった絵に描いた餅に陥る。
 私たち慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科が2008年の設立以来構築してきたSDM学は、大転換のためのひとつのグッドプラクティスであると考えている。すなわち、我々は、大規模複雑に絡み合った糸を解きほぐし要素間の関係性を明らかにする「システム」という視点、多様な人々が協力し新しくイノベーティブな解決策を創造する「デザイン」という視点、ソリューションをサステナブルに管理・運営・経営していく「マネジメント」の視点から、学問や職種の壁を超えた全体統合型学問SDM学の構築と、それを実践する人材の育成を行ってきた。SDM学は、現代が必要とする、世界的に類を見ない新たな学問体系であると自負している。学生は、官公庁、企業の者から個人事業主、教員、アーティストまで。過半数は企業派遣等の社会人学生であり、文理、年齢、国籍の壁を超えた多様な人材である。それぞれの俯瞰的問題意識のもと、あらゆる社会システム・技術システムを対象にSDM学に基づく全体統合型問題解決を試みている。もちろん、学問の塔に閉じこもらない実践重視・連携重視である。これまでに、産学官連携のもと、大学院内での研究、企業との共同研究や研修などの形で、企業間連携型の問題解決、起業、政策提言、地域活性化などの様々な成果を着実にあげてきた。今後も、従来型とは全く異なる大学院として、さらに官公庁や企業、国内外大学との連携を強化し、真の協働に基づく社会構造・意識構造の大転換に寄与していきたい。
 ただし、我々だけが力んでいても、国家レベルないしは地球レベルの問題解決にはなかなか至らない。今後は、志を同じくする産学官の連携と共感の「場」を構築することが急務であると考えられる。
 図(pdfファイルの最終ページ参照)に、大転換時代に対応して競争力を強化するための「方法論」と「場」のイメージ図を示す。方法論としてはSDM学を例示しているが、もちろん、同じ志で研究・教育・実践活動を行なっている多くの学問――イノベーション学、国際コミュニケーション学、総合政策学など――の英知を結集して、実践型の方法論を確立することが急務である。また、最も重要なことは、産官学が真に志を共有して大転換を実践する協働の「場」の構築である。協働の場は、学協会、競争的資金、フューチャーセンターなど、様々な形があり得ようが、いずれにせよ、拠点間が”競争”するのではなく”共創”することが重要である。辛口の発言をお許しいただけるなら、昨今の産官学では、リーダーシップ不在のため全体統合型志向が要素還元型志向に凌駕されてしまうケースや、競争的資金獲得のための形式的な協働の場に陥るケースが残念ながら少なくない。少人数でもいいので、真に全体統合型の再構築を目指す理念を共有するチームから始め、すそ野を広げていくことが重要である。
 そのような社会構造・意識構造の大転換は容易ではないというご批判もあろう。しかし、私は楽観視している。既に多くの者は現代の問題点に対して共通認識を持っているし、草の根的な改革活動・創造活動は産官学および市民活動の随所で活発化している。また、日本に住む者は総じて緻密な思考力に長け賢明、勤勉、利他的である。ある閾値を超えれば、平安文化、江戸文化、明治維新、戦後の復興など、数々の歴史が証明してきたように、世界一サステナブルな国日本に、混沌の後の大転換と繁栄の時代がやってくることは、自明であると私は信ずる。皆で力を合わせ、より良い社会をデザインしましょう!
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プロフィール

Takashi Maeno

Author:Takashi Maeno
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)ヒューマンシステムデザイン研究室教授
慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務
前野隆司

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