世界保健機関(WHO)憲章の前文に、広義の健康の定義が書かれています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
DeepLで和訳してみると、
健康とは、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や虚弱がない状態を指すのではない。
となります。
公益社団法人日本WHO協会の”仮訳”
https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/は、
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます。
となっており、最近はこれを引用する人が多いのですが、well-beingが”満たされた状態”と訳されているのが私は気になります。well-beingには”満たされた”というようなニュアンスはなく、”良好な状態”の方が直訳的だと思うからです。
拙著『ウェルビーイング』(日経文庫)には、以下のように書きました。
いま、ウェルビーイングという考え方が注目されています。
このウェルビーイング、初めて言葉として登場したのは、一九四六年に設立された世界保健機関(WHO)の憲章です。設立者の一人である施思明(スーミン・スー)の提案によるものでした。では、ウェルビーイングとは何でしょうか。訳語としては「健康」「幸福」「福利」「よいあり方」などが当てられてきました。WHOの憲章における「(広い意味での)健康の定義」の中で使われている単語です。すなわち「健康とは、単に疾病や病弱な状態ではないということではなく、身体的、精神的、そして社会的に完全に良好ですべてが満たされた状態である」と定義づけられる中の、「満たされた状態」と訳されているのがwell-beingという英単語です。「ウェル」と「ビーイング」ですから、直訳すると「良好な状態」なのですが、最近は「満たされた状態」と訳されることが多いようです(図1:資料5)。
厚生労働省の資料「健康長寿社会の実現に向けて ~健康・予防元年~」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/14/dl/1-00.pdfでは、
健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。
と訳されています。今度、菅原育子先生と一緒に出す『「老年幸福学」研究が教える 60歳から幸せが続く人の共通点』(青春出版)でも、同じ内容が平成26年版厚生労働白書に書かれていたので、この定義を採用しました。
というわけで、現在の私は、厚生労働省の薬を引用して、well-beingを「良好な状態」と訳すのが、誤解を呼びにくく妥当だと思っています。以上、健康の定義、well-beingの和訳のしかたについて、メモ的に述べてみました。
ちなみに、アメリカ英語ではwell-being、イギリス英語ではwellbeingと書く傾向があるようです。Googleで検索してみると、実はwellbeingの方がメジャーなようです。
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