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『アドラー心理学×幸福学でつかむ! 幸せに生きる方法』(ワニ・プラス)の「まえがき」

2021年7月17日発売の『アドラー心理学×幸福学でつかむ! 幸せに生きる方法』(ワニ・プラス)の「まえがき」をここに掲載します。

まえがき

幸せに生きるための人類の知恵を百年分詰め込んだ本が、できました!

精神科医で心理学者、社会理論家だったアルフレート・アドラー先生が生きたのは、一八七〇年から一九三七年。つまり、アドラー心理学は、ざっと百年前の心理学・哲学です。一方、本書の著者である平本あきおさんは一九六五年生まれ、私は一九六二年生まれですから、本書の著者はアドラー先生から約百年後を生きた二人です。

本書が完成した今、振り返ってみると、本書は、時代を超えた三人の共同作業でした。そのことを、僭越ながら誇りに思います。

この本を手に取ってくださった方々に、私の三つの思いをお伝えしたいと思います。三つの思いは、本書の三つの特徴でもあります。

1 アドラー心理学と幸福学を俯瞰しわかりやすく対応づける本であること
2 わかりやすく役に立つ実践例を述べる本であること
3 平本さんと僕から心を込めて皆さんに贈る本であること

1つ目は、アドラー心理学と幸福学を俯瞰しわかりやすく対応づける本であることです。つまり、百年前からのアドラー心理学と現代の幸福学を結びつけながら学ぶことのできる初めての本です。

平本さんはアドラー心理学のエキスパート。私は、現代の心理学である幸福学(ウェルビーイング・スタディー)の研究者。この二人のやり取りの絶妙さをお楽しみいただきながら、幸せに生きることについての理解を深めていただきたいと思います。
はっきり言って、アドラーの頃の心理学と現代の心理学は異なります。当時はコンピュータもない頃で、心理学は哲学の一分野でした。一方で、現代の実証主義的な心理学は、科学の一分野です。

その違いの一例を挙げると、アドラーの共同体感覚というのは哲学であり、これが正しいか間違いかを現代の心理学によって科学的に検証するような範疇のものではない、ということができます。

だから、アドラー心理学と現代の実証主義的心理学を対応づけようとするような困難に挑む本はこれまでにありませんでした。本書は、そんな壮大な課題に果敢に挑んでいます。というとすごいことのようですが、実のところは、僕が平本さんにアドラー心理学と現代心理学の共通点と違いについてしつこく何度も問いただすことによって、その点が明確になっていくという仕掛けになっています(笑)。
現代の心理学は実証主義的な科学だと述べましたが、詳細まで見ていくと一枚岩ではありません。現代の心理学のうち、臨床心理学は、少し違った傾向を持った分野です。臨床心理学では、科学的な真理を明らかにすることよりも、患者を治す(ないしは、人をよりよい状態にする)ことを重視する傾向があります。
アドラー心理学は、現在の臨床心理学の源流の一つに位置付けられます。このような位置づけも、本書では、アドラー心理学と現代実証主義的心理学の比較の中から、明らかになっていきます。学問分野についての理解が進むことも、本書の醍醐味の一つといっていいでしょう。本書の中で何度も出てきますが、「アドラー心理学は正しいことよりも患者を治すことに重点を置いた心理学である」という点は、眼から鱗です。この点は、アドラー心理学を学ぶ方には必ず押さえておいてほしい点です。

それから、本書は俯瞰的な視点からアドラー心理学と現代の心理学を対応づける本であるという点に、ぜひご注目ください。
実は、私はこれまでに何冊もアドラー心理学に関する書籍や文章を読んできましたが、なんだかややこしくてわかりにくいという印象を持ってきました。もちろん、これは私の理解不足によるものですが、なぜわかりにくいのでしょう? それは、アドラー心理学が多くの要素から成りたっているからだと思います。

ある人は「目的論」こそがアドラーの醍醐味だと言います。読んでみると、確かに目的論は面白い。「子供が泣くのは悲しいからではなく、お母さんの気を引くという目的のため」と説明されると、またまた眼から鱗です。アドラー心理学は、現代の心理学では見たこともないような新たな視点をもたらしてくれます。アドラー心理学、すごい。そう感じさせてくれます。

しかし、他の本を読むと、「共同体感覚」こそが重要だと書かれています。読むと、人は皆、共同体感覚を持っていて、それを思い出していない人もいるが、思い出していくと幸せになっていくと書かれています。わかる〜。共同体感覚の要素であるといわれている自己受容、他者信頼、他者貢献感の三つも、よくわかります。身に染みます。私が提唱している幸せの四つの因子とも整合します。やはり人間が幸せになるために重要なのは、自分と、まわりの仲間と、世界の生きとし生けるものが、一緒に生きていることだよね〜、と共感します。百年前にこれを論じたアドラー、尊敬します。すごい。

またまた他の本を読んでみると、「勇気づけ」(エンカレッジ)と「勇気くじき」(ディスカレッジ)の対比がアドラーの真髄だと書かれています。勇気づけと勇気くじきという和訳はなんとなく特殊な感じもしますが、エンカレッジが必要なことはよくわかります。やはり、叱るのではなく、褒めるのでもなく、エンカレッジだよね〜、と共感します。アドラー、すごい〜。

しかし、アドラーについて知れば知るほど、いろいろあるけど「要するにアドラーってなんなの?」という問いが湧いてきて、なんだかもやもやした想いが残っていたものでした。

これに対し、平本さんは、わかりやすく全体像を示してくださいました。

アドラー最新

く〜。この図ですよ、この図。さすが、アドラー心理学の第一人者のひとり。この図こそ、アドラーを学ぶすべての人が学んでおくべき、アドラーの全体像です。この本の読者の方には、この図を、徹底的に、頭に刻んでいただきたいと思います。というか、読んでいくうちに、刻まれます。
私もそうでした。頭の中に、アドラーのフレームワークが叩き込まれることによって、心の問題への対処法が明確に整理されました。ご安心ください。この図は、本書の中でしつこいほど何度も出てきます。このため、本書を熱心に読んでいただけば、自然とこの図は頭に入っていくことでしょう。

私も、この図が頭に叩き込まれてからは、他の本や論文で述べられているアドラー心理学がスイスイと理解できるようになりました。なるほど、勇気づけ、目的論、共同体感覚は、ここにこういう理由で配置されているのね、という全体俯瞰的な理解ができるようになりました。アドラーと平本さん、ありがとう。

私はもともと俯瞰の好きな研究者でして、幸せの四つの因子の研究なども、そんな私の特徴を表しています。一方で、多くの研究者は「広く浅く」よりも「深く狭く」が好きな傾向があります。俯瞰よりも、詳細。幸せ(ウェルビーイング)の研究者も同様で、みなさん、深く狭く真理を追及されます。

たとえば、幸福学研究の第一人者であったエド・ディーナー先生(一九四六〜二〇二一)もホームページの連絡先の部分に以下のように書かれていました。

ディーナー博士の研究は基礎科学的レベルにあります。したがって、彼の仕事の多くはテクニカルであり、「幸せになる方法」に容易に翻訳できるものではありません。ディーナー博士は幸福について彼が知っていることに関して議論する意欲はありますが、彼がデータを持っていない質問について推測することは望みません。
(https://eddiener.com/contact)

幸福学の第一人者でドクター・ハピネスとも称されるディーナーが「自分の研究は科学的かつテクニカルであり、どうすれば幸せになれるかという問いは私のやりたいことの範疇外である」と明記されている点に、現代実証主義的心理学者の典型的な立場が表明されていて面白いですね。
もちろん、アドラーは逆です。私もです。私はもともと工学系出身で、博士号の学位名は博士(工学)。工学とは、科学の成果を役に立つ形で応用する学問。だから、幸福学の全体像をわかりやすくまとめ、使いやすい形にして提供することに興味があるのです。ポジティブ心理学と呼ばれる分野も同様です。実践の心理学であり臨床心理学がルーツであることもあって、ポジティブ心理学の研究者も実践的であることを重視すると言えるでしょう。

話を戻しましょう。以上のような理由により、百年前のアドラーの考えを明確化し発展させたアドラー心理学の全体像と、私が行っている幸福学の全体像は、似ている面があります。
私が因子分析の結果求めた幸せの四つの因子とアドラー心理学のどこが対応しているのか、については本文中に述べましたので、謎解きをぜひお楽しみください。一方、最も異なる点は、アドラー心理学は哲学ですが、私の心理学は科学であるという点だと思います。
アドラー心理学は、全体像を示した図にあるように、まず、共同体感覚という哲学が基盤にあって、その上に理論と技法が展開されています。
私の幸せの四つの因子は、統計学に基づいた分析結果であって、これについて考察する結果として、「やりがい、つながり、チャレンジ、自分らしさの溢れた人が幸せな人である」という全体像が導き出されたという形になっています。
構造が逆です。つまり、哲学から始めて実践で終わるか、科学から始めて哲学で終わるか、という違いが、アドラー心理学と私の幸福学の最大の相違点だといえるでしょう。

さて、本書の二つめのポイントについて述べましょう。「わかりやすく役に立つ実践例を述べる本であること」です。すでに述べたように、アドラー心理学は使ってもらうための心理学です。アドラーは自らの心理学のことを工学であるとさえ言っています。平本さんも実践者。もちろん私も工学者。三人とも実践者です。科学の基礎を突き詰めることももちろん大切ですが、科学的に(あるいは哲学的に)明らかにされたことを、実際に使用できる形にしてこそ、人々が幸せになるために役立つという想いで一致しています。そんなことを感じていただける著書となりました。
なかでも圧巻なのは、平本さんによるわかりやすい実践例の数々。あたかも光景が目に浮かぶような形で、よくある悩みの具体的解決法がたっぷりと述べられています。
個人的には、事例の部分はロールプレイしながら読むのがおすすめだと思います。ぜひ、いい例と悪い例をだれかと声に出してやりとりしてみて、その心理的な違いを実感していただければと思います。
私もゲラを読みながら、妻とロールプレイしてみました。すると、身につきます。いつか同じような場面に遭遇した時に、アドラー流に振舞うことができます。そんな、今すぐ使える実践的な本です。あなたの課題が解決すること、請け合いです。
もうひとつ、圧巻なのは、平本さんへの「その実践例は哲学や理論のどことどう関係するのですか?」という質問を何度かしたのに対し、全体像の図のすべてと関係することを、次から次へと溢れ出てくる勢いで説明されていたことです。いかに深くアドラー心理学の体系を平本さんが身につけていることか。本文をお読みいただくと、平本さんの愛と熱意とエネルギーを感じていただけると思います。

そして、三つ目の特徴。平本さんと僕から心を込めて皆さんに贈る本であること。
私は、実証主義的な科学の研究者にしては熱苦しすぎる、と批判されることがあります(笑)。確かに、ディーナー先生のようなスタンスが科学研究者の基本であるという立場から私を見ると、個人的な考えを熱く語りすぎると感じられるのかもしれません。しかし、私の出自は、先ほども述べたように工学です。もっというと、民間企業にもいた経験があり、工学は具体的に使うところまで実践してこそ意味があるという思いがあります。つまり、私は、科学・工学・実践をつなぐことを行っている研究者なのです。
さらにいうと、本を書く時、私は、研究者である以前に、心を持った人間です。一人の研究者としてでははく、一人の生きる人間として、すべての人の幸せのために、本書を書いているのです。
そして、本書をお読みいただくとおわかりになると思いますが、平本さんも、人々が幸せに生きる世界を作ることを目的に活動されている方です。生きる目的自体が共同体感覚です。私と同じです。だからこそ、意気投合し、みんなのために、この本を書いているのです。必要な方にこの熱い思いが届くことを心より願っています。

これまで幸福学やポジティブ心理学を学んでこられた方にも、そうでない方にも、読んでいただきたい書です。百年の時を経て完成されたアドラー心理学の体系をご理解いただくことによって、思考と知識の幅が広がるでしょう。また、すでにアドラー心理学に詳しい方にも、読んでいただきたい書です。全体俯瞰と平本流実践例により、理解が深まることでしょう。

心より祈っています。すべての人が、自分を大切にし(自己受容)、まわりのみんなと信頼し合い(他者信頼)、社会のために何か行動できますように(貢献感)。誰もが人生の主人公(創造的自己)として未来を思い描けますように(目的論)。あなたの想いが尊重され(主観主義)、必要とされますように(対人関係論)。すべての人の行いにすばらしい意味があることを皆が認め合う世界(全体論)を実現できますように。そして、すべての生きとし生けるものが幸せに生きられますように(共同体感覚)。本書がそのための一助となっていますように。みんなつながっていますね。あなたが幸せでありますように(幸福学)。

前野 隆司

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プロフィール

Takashi Maeno

Author:Takashi Maeno
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)ヒューマンシステムデザイン研究室教授
慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務
前野隆司

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