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「成人発達理論」と「ティール組織」についての考察

【「成人発達理論」と「ティール組織」についての考察】

ティール組織を目指すべきではない。

『ティール組織』という本で有名になった組織論は、もともとはロバート・キーガン、ケン・ウィルバー、カート・フィッシャーなどの成人発達理論に基づいている。つまり、「成人の心がそのレベルに発達した人ばかりで作る組織は、その形態になることが可能だ」という話なのである。心がそのレベルに達していない人がそれを目指すべきではないのである。しかも、そのレベルに達するには、その前のレベルを十分理解し、十分運用できるスキルを身につけ、「卒業」しているべきなのである。ここに誤解があるように思う。アンバーは嫌だから、グリーンに行きたい、というような。気持ちはわかるが、それは無理なのである。その前の心の状態および組織の状態を十分に理解し、運用できるようになった上で、「違うやり方もあるよねー」と次に行くべきなのである。

つまり、心が発達していない人がティールを目指すと痛々しい結果になる。

ちなみに、心の発達というと上の方がいいように思えるであろうが、「確かにそうなのだが、決してそれを目指すべきではない」というのが正解である。だから、みんな、ティール組織を目指そうとは思わないでいただきたい。でも、ティール組織はいいのである。もう一度言うが、いいのであるが、目指すべきではないのである。幸せと同じである。幸せになった方がいいが、「幸せを目指す人は不幸」という研究結果もあり、幸せは目指さない方がいいのである。つまり、幸せになった方がいいが、幸せは目指さない方がいいのである。で、成人発達も、それに基づく組織論も、同様なのである。

これまで成人発達理論はそのトップダウン的な特徴から論じられる傾向があった。しかし、自己肯定感が低く、受動的で、主体性や自己決定の能力が乏しい人の多い傾向のある日本では、ボトムアップ的に、なぜ人々がそのレベルに留まっているかの考察が欧米以上に必要なのではないか。そう思って考えてみるのが以下の考察である。

成人発達理論によると、人の心は、レッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティール、ターコイズ、インディゴ、バイオレット、ウルトラバイオレット、クリアライト、と成長していく。その一部について、考えを述べる。

レッド:自由な生き方・組織
自由気まま。狼の群れや、ウサギの群れや、幼稚園児の群れ。

アンバー:軍隊的な生き方・組織
上から目線の側:司令官のように、組織全体を統括したいというレベル。
下から目線の側:ルールやマニュアルには従うべき、なぜそうなのかなどとは考えずに社会が私に与えてくれた規範には盲目的に従うべき、という段階。盲目的。「べき思考」はよくない、という議論があるが、そんな議論に縛られている段階。主体性が不足。主体的で自主的な生き方を獲得しないと次の段階にはいけない。自己犠牲的で共依存になる人はこのタイプ。自己肯定感が低く自己受容できていない人もこのタイプ。自分探しをしている人は、まだ主体的な自分を見つけていない。そういう人は、まずここを抜け出さないと残念ながら自由にはなれない。もちろん、上のレベルの組織論や成人発達段階を語るべきではないかもしれない。

オレンジ:合理的な生き方・組織
上から目線の側:自由、平等、オープン、フェアな、資本主義社会を作ろうよ、という人間中心的世界観。勝ち負け、善悪、自他、分析、といったようなクールで合理的な考え方に従う。多数決OK。最大多数の最大幸福を合理的に目指す。近代西洋的。
下から目線の側:多くの日本人は、この、サバサバした感じにまだ行けていないのではないか。上に述べた「べき思考」は良くないと言ったり、社会に不満を述べてたりしている段階は、アンバー。自分に自信を持ち、自己肯定感は中くらい以上にあって、自由で公正な競争に身を投げようと思うのがこのレベル。この現代社会で、金持ちになってやるぜ、とか有名になってやるぜ、というのがこのタイプ。つまり、多くの日本人は、安心・安全な国家に住んでいるが故に、このレベルにも達していないのではないか。もちろん全員ではないが。それを日本人は自覚すべきだと思う。

グリーン:家族のような生き方・組織
私もこの状態を家族のような状態と述べてきたが、誤解を招いたのではないかと反省している。下から目線に立って、家族のように守られているとほっとするような段階ではない。上からの立場の者が、オレンジ型の論理的対立を乗り越えて、家族のようにアコモデーション(意見の対立を乗り越えたわかりあい)を目指す段階である。やさしくいたわりあうという段階というよりも、軍隊のようなやり方も、合理的で血も涙も無いやり方も、理解し、体験し、習得した上で、それを超えた家族的理解が大事だと腑に落ちた段階なのである。最初に述べたように、あくまで成人の心がどこまで発達しているかについての議論なのであり、前の段階をクリアしていない人は達せない境地なのである。前の段階を感じたことがあるからOKではないのである。大事なのは、前の段階をクリアしていること。前の段階のメリットも、痛みも、十分に理解し、その上でこのやり方で行きたいと心の底から思うのが、グリーンに限らず、成人発達なのである。

ティール:自然林のような生き方・組織
家族的なグリーンを超えて、家族会議のような話し合いをしなくても、分かり合えているような状態。完全に任せ合え、信じ合え、自由自在にいきているようでありながら、秩序は保たれている状態。秩序が保たれている理由は、もはや、おわかりでしょう。上に書いた全ての段階を、挫折したり苦労したりしながらすべてわかり尽くした上でここにいる人たちだから、そんな、心の発達した人たちだから、成り立つ状況なのだ。世の中で「ティール組織」と言われている組織をいくつも見てきたが、完全なティール組織は見たことがない。経営者や一部の人は心がティールというべき段階に達しているけれども、ティールとは何かを理解していないレッド、アンバー、オレンジ、グリーンの人が混ざっていたり、さらにタチの悪いことに、自分はティールに達していると勘違いしているレッド、アンバー、オレンジ、グリーンの人が混ざっていたりすることが普通である。その人たちがだめだという気はもちろん全くない。ただし、勘違いしてティールをやった気になって、ティールってうまくいかないよねー、と誤解するような人が増えていることを残念に思う。

いろいろ書いたが、まあ、思うことは、「成人発達を目指すことを第一目標にする生き方」はオススメだと思う。心を磨くことは、何にも増して人間がやるべきことだと思う。経済成長よりも、自己成長。そういう時代は来ていると思う。まちがいない。アメリカのCIISとか、イギリスのシューマッハカレッジって、かっこいいと思う。今後目指すべき在り方だと思う。日本にもそんな学校を作りたいと思う。人間は成長を目指すべきだと思う。しかし、人間は、成長したいという点にフォーカスすべきではないと思う。成長すべき、しかし、成長を目指すことにフォーカスしすぎるな、である。

(参考)
『経営者の意識の発達とスピリチュアリティ』と題する狩俣正雄さんの論文が有益なので掲載しておきます。参考文献として。
https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/…/…/kiyo/DBa0640201.pdf

(1) インフラレッド (infrared)は原始的世界観である。 この段階では生存こそがこの世界 観を衝き動かす使命であり目的である。食糧、水、 安全、温暖などを獲得することを重視する 基本的な生存欲求が個人の意識を支配している。これは乳児の世界観であり、自己と世界を区 別することができない原始的な世界観である。

(2)マジエンタ(magenta)は呪術的世界観で、神秘的な力を信奉する世界観である。主 体と客体は部分的に重なり合うことになる。神聖な場所、物体、儀式、催し、物語は世界に何 らかの神秘的な影響を与えると見なされる。生活の安全と安定は部族集団を形成し、その秩序や規範に従うことで追求される。部族の安全と繁栄を持続するためには、神秘的な秘蹟や精霊 の命令は尊重されるべきものとして重視される。

(3)レッド(red)は力の世界観である。この段階の人は自己中心的で、自らの欲求と欲望を表現し充たそうとする。世界は適者生存の法則に則って生き、死ぬところであり、脅威を排 除して生存するために自らの力を誇示し強力なリーダーと組んだりする。

(4)アンバー(amber)は神話的世界観で、この世界観では神の支配は人間の営みに直接関与する力として経験される。人々は秩序と意味の源泉である神と国に対して自己犠牲をすることを要求される。規範と規則は人生に明確な全体的意味、方向性、目的を与える。二極対立的な黒と白という白集団中心的な発想が支配的となる。

(5)オレンジ(orange)は合理的な世界観で、特定の集団に対する帰属を超越して、普遍的なシステムと法則(平等、自由、正義などの理念)をすべての人類に適用するもので、世界中心的な世界観である。この段階では自由競争をくりひろげる市場で勝利しようとする。それは、勝利が最善の解決策を求めて果敢に戦略、計画、実験を構築し遂行することによって得られるからである。

(6)グリーン(green)は相対主義的な世界観で、あらゆるものが包括的な生命の網を構築する等しく重要な存在とみなされる。この段階では少数派や非抑圧者に発言の場所を積極的に与えようとし、多様な視点を平等に尊重し、排除される人々がいないよう必要な対策を講じようとする。その結果として過剰なまでの教条主義的な発想、をもたらし、関係者全員の同意に基づく意思決定にこだわる過剰な共同体重視になる。

(7)ティール(teal) はインテグラル・システムの世界観である。この世界観は複雑に絡み合うシステムを洞察して、それに効果的に働きかけることができるように、多種多様な視点を探究することに興味を持つ。この段階の人々は明噺性、創造性、生産性、意思疎通などの領域において画期的な飛躍をもたらすようになる。また人々は問題を創造性発揮の課題や機会として捉え、すべての関係者が満足できるウインーウイン(WinWin)の解決策を創造しようと する。彼らは巨視的な視野を保持でき、自己のありのままを受容し、日々の学習を通して自らが目指している自己象を責任を持って完全に生きることができる。

(8)ターコイズ(turquoise)は統合的・包括的な世界観である。この段階では世界を体系的に捉える意識を確立するだけではなく、個人としての私を超越し包含する体系そのものと自 己を一致させようとする。これは個を超える意識の始まりであり、自然とスピリットと一つになる感覚を持つようになる。この段階の人々は他者と世界に貢献することに興味をいだき、行 動するようになる。

(9)インディゴ (indigo)、およびそれ以上の段階(violet、ultraviolet、clearlight)は、 超統合的な世界観で、真の意味での個を超えた(transpersonal)世界観である。この段階では主体と客体の分離を超克し、「個」であることに対する執着を放棄し、その「個」が内包する緊張とストレスを開放することになる。この段階の人々は字宙の中で安息する感覚を得ることができ、誕生と成長と老いと死と歓びと悲しみの自然な流れの中に安息する。ヴィルパー (1995)は、この段階を心霊(psychic)、微細(subtle)、元因(causal)、非二元(nondual) の四つのレベルに分け、スピリチュアル段階としている。
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プロフィール

Takashi Maeno

Author:Takashi Maeno
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)ヒューマンシステムデザイン研究室教授
慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務
前野隆司

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