『感情資本主義に生まれて 感情と身体の新たな地平を模索する』(岡原正幸、慶應義塾大学出版会)を読んだ。なかなか刺激的で考えさせられる良書だったので感想と意見を書こうと思う。
岡原教授(慶應義塾大学文学部)は、現代とは、自己実現や自己啓発、コーチング・セラピーを煽る社会であり、よりよい感情のありかたを身に付けなければ生きにくいような圧力が人々にのしかかる社会であるという。現代社会に合致した感情コントロール技法を身に付けた者が社会でより有利な地位に就ける「感情管理社会」である。中世には感情はもっと自由に発露されていたのに、現代では好ましい感情の抑制パターンが合意され、それに合致しない感情発露を行う者は不適合扱いされがちである。
僕の『幸せのメカニズム』では、幸せになるためには自己実現をしよう、と述べていて、帯には(頼んでもいないのに)「幸せはコントロールできる!」と書かれている。振り返ってみるに、僕の本は一見すると、あたかも感情管理者会奨励本であり、自己の感情のみならず幸福までコントロールしようというのだから、岡原教授の本の対極に位置づけられるように感じられるかも知れない。正直言って、僕も「幸せはコントロールできる!」という帯には抵抗があったのだが、まあ、刺激的でいいかと思い、出版社の提案を受け入れたのだった。
僕の本は、実をいうと、感情資本主義型の社会迎合的自己実現を目指す人にも、それに反して独自の道を行く人にも、受け入れ可能な立場を取っているつもりである。(帯の印象とは違って)感情資本主義に対して中立である。自己実現という言葉もあえて使ったが、「画一的・合理的自己実現」と「オタク的自己実現・平穏型自己実現」の両者を肯定している。すべての人が幸せになる唯一の方法は、
すべての人が百人百様の自己実現をめざし、しかもバラバラではなくつながりポジティブに認め合い尊敬し合い、他人との比較ではなく各自の方向の成長において満足するということだと夢想するのである。いや、単なる夢想ではなく合理的な幸福連立方程式の解だと思うのである。
話はやや飛ぶが、もう一冊、最近読んだ本で面白かったのは原田曜平さんの『ヤンキー経済』。原田さんは、「さとり世代」のときもそうだったけれど、微妙に違和感・拒否感を感じさせ煽るようなうまい表現をする方だと思う。この本も一見僕の本の対極にあるようだがそうではない。ただし、狭いつながりに閉じ、強い自己実現を目指さない新保守層(マイルドヤンキー)に、僕が理想と思っている、百人百様の自己実現と多様なつながりをポジティブに目指させるということは可能なのか、と考え中。この問題が解けないと、「みんな幸せ」な社会は実現できないのだ。と、思考をふくらませてくれる一冊。
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- 2014-04-07
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