Entries

世界に誇る日本の幸せ

明けましておめでとうございます。
信用金庫新聞の1月1日号に「世界に誇る日本の幸せ―日本人の10の特徴と4つの幸福因子」という私の文章が掲載されました。今年も幸せな1年を!

20131226233548.jpg

以下に全文を公開します。

「世界に誇る日本の幸せ―日本人の10の特徴と4つの幸福因子」

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授 前野隆司

ロボットの幸せを描いている場合か!?
 あけましておめでとうございます。新年にあたり、二つのことを述べたいと思います。一つは、日本はすばらしい国家であるということ。二つめは、日本人に対する調査に基づく、幸せになるための四つの条件です。
 私はもともとロボットの研究者でした。笑ったり驚いたりするロボットを作ったりもしていましたが、幸せなふりをするロボットを作ることよりも幸せな人間の社会を作ることに寄与したいと思い、人間の幸せの研究、イノベーションの研究、日本人論の研究などを行うようになりました。現在は、二〇〇八年に開設された文理融合の大学院、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)に所属し、社会人学生や新卒学生とともに、学問分野や職種・職階を超えて新しい世界を作るための全体統合型学問の教育・研究を行なっています。
 本稿では、私が行っている研究の一部をご紹介したいと思います。すなわち、そもそも日本人とはどんな国民なのか、そして日本人の幸福の形とはどんなものなのか。

日本人の十の特徴
 私が所属するSDM研究科では英語コースも開設しており、日本語が話せない学生も、英語の授業と研究指導により修士課程・博士課程を修了できる体制を取っています。こんな中、日本人・外国人の学生とともに異文化コミュニケーションの議論をすると、日本人の特徴として、以下のような点が挙げられることがあります。

1.日本人は表裏がある
2.日本人は考えをはっきり言わない
3.日本人は必要以上に謝る
4.日本人は人の目を気にする
5.日本人は決断が遅い
6.日本人は意味もなくニコニコ笑う
7.日本人は愛想が悪い
8.日本人は独立心、自尊心、自己統制感が低い
9.日本人は外国人に対して差別をする
10.日本人は日本人論が好きである

 いずれも一見すると日本人の悪い特徴のようにも思えますが、本当に悪い特徴なのでしょうか。私はそうは思いません。かつて丸山眞男氏は「日本の思想」(岩波新書、一九六一年)の中で日本は無限抱擁性を持った国だと言いました。古来、外国から入ってきたあらゆることがらを無限に抱擁するかのように受け入れていく日本の姿に、アイデンティティーの不確かな危うさを感じたことを表した表現だったと考えられています。ただし、「日本の思想」が書かれた高度成長期真っ只中と、それから半世紀が経ち閉塞感脱却にもがく現代では、同じ特徴を逆の意味の警告として論じるべきなのではないでしょうか。つまり、丸山の時代は、高度成長への警告としての無限抱擁性批判が学者から発せられるべきだったのに対し、現代という時代には、悲観論脱却のために、無限抱擁性のポジティブな再評価が必要なのではないかと思うのです。

日本は無限抱擁の国
 私が主張する無限抱擁性のポジティブな評価とは、以下のようなものです。
日本は和の国です。近代西洋型の合理主義とは異なり、自他、正誤、善悪、真偽という二項対立を超えて、和を持って貴しとなす伝統を持つ国です。これは無限ともいうべき包容力です。抱擁力です。かつて日本は、中国から漢字を輸入してからしばらく経つと美しいひらがなの文化を発明しました。同じく中国から仏教を輸入した後には、神仏習合して新しい融合的宗教を作り上げました。無我の思想は無私の思想へと深化させました。江戸時代には中国、オランダなどの限られた貿易相手国から輸入した文化や技術をアレンジして、江戸文化を開花させました。いずれも、外国から文化や技術を輸入したしばらく後に、自国の文化や技術を開花させています。仏教を輸入した頃から千五百年間一貫して、無限包容・無限抱擁の伝統は変わっていませんでした。
明治維新後や戦後には西洋流の科学技術、教育法、政治・経済運営法を輸入しましたが、私には、まだ、平安時代や江戸時代とは違って、自分流のアレンジには至っていないように思えます。では、現代は、平安時代や江戸時代とは違って、無限抱擁のやり方を間違えた時代なのでしょうか。私は、そうではなく、現代とは過渡期なのではないかと思います。平安中期や江戸中期と同じく、排他せず抱擁して受け入れた異国の文化を消化し昇華して自分のものにするための、生みの苦しみの時期。
つまり、日本とは、大化の改新の時代から現代にいたるまで、常に外からの文化や思想を無限抱擁的に受け入れた国でした。しかし、外のものに染まるのではありませんでした。常に、受け入れた後でものにしてきました。いつまでも染まらずに自分らしくいられる秘訣は何なのでしょうか。河合隼雄先生の言葉を借りると「日本システムの中心には無ないし仮のものしかない」(「中空構造 日本の深層」中公文庫、一九九九年)からだと思うのです。中心に何もないというのは、これもまた日本批判のように聞こえるかもしれませんが、私はそうは思いません。中心に何かがあると、異質なものは受け入れられません。それに対し、日本には、先ほども述べた、仏教的な無我の思想や、日本的な無私の思想を持っています。無です。中心に何もないというのは、何も考えていないという意味ではなく、中心に無があるということなのです。歴史が培ってきた深い思想的な意味として、中心に我や私がない、ということだと思うのです。
つまり、パラドキシカルなようですが「中心に何もないということが思想の中心にある」というのが日本のユニークで強い点だと思うのです。皆様ご存知のように、日本は最も長く続いてきた国です。世界の長寿企業ランキングを見ると、日本の老舗企業は一人勝ちの様相を呈しています。つまり、日本は世界一サステナブルな国家、日本型の経営システムは世界一サステナブルなシステムなのです。

日本人の十の特徴は日本の良い点
 そのように考えてみると、日本人の十の特徴はいい点に見えてきます。
 1の、表裏があるというのは、表か裏かという近代西洋的な二項対立図式の超越とみなすことができます。論理的に対立図式を描き、戦って勝つべき、という進歩主義の超越です。勝ち負けという図式からは問題は解決できないことを、諸外国も気づき始めています。二項対立図式は超越すべきなのです。2の、考えをはっきり言わないのも、はっきり言うか言わないかという二項対立の超越。3の、必要以上に謝るといわれるのも、誤るのは悪いことだとか敗北だとかいった二項対立的な勝ち負け図式の超越。4の、人の目を気にするのも、勝敗を超えた和の思想の表出。5の、決断が遅いのは、早い決断によって自分だけが勝ち残ろうという利己的判断の超越。やはり和の思想です。6の、意味もなくニコニコ笑うのも和の思想の表現の一つ。7は、逆に愛想が悪いとの指摘ですが、愛想がいいか悪いかという二項対立図式の超越。8の、独立心・自尊心・自己統制感が低いというのも、自分と他人、統制と放任といった自他・内外・善悪のような対立構造の超越。9は異質ですね。外国人に対して差別をするというのは誤解でしょう。誤解を解く努力が必要だと思います。10の、日本人は日本人論が好きであるというのも面白いですが、これは「中心に何もないということが中心である」のが日本なので、いくら日本人について語っても、最後のところで中心が見えて来ないから議論が続く、ということなのではないかと思います。日本人論では語り尽くせないような無限抱擁性を持っていることこそが日本の深さなのです。これを短絡的に捉えて得体が知れないと思うのは読みが浅い。日本とは、世界一長い文化の蓄積の中で、究極のサステナブルのための方法を身に付けた老練国家なのです。サステナブルである理由は、負けないから。負けない理由は、戦わないから。戦わないで、抱擁するから。
 しかも、日本の面白い点は、それに多くの人が気づいていない点です。「中心に何もないことが中心である」ことに人々は気づいていない。共通思想化されていない。まさに中心思想が無い。なのに成立している。だからこそ、力を入れずに多様なものを多様な形で受け入れることができ、さらに日本らしさは多様化する。多様性は頑強性の源泉です。だから強い。
 もしかしたら、私のこの文章が共有されたら、日本の強みが失われるのかも知れません。「中心に何もないことが中心である」という中心的思想が共有されてしまうと、多様性が失われるかもしれないからです。よって、変な話ですが、年初のこの文章は、奇妙なことに、正確には理解されない方がいいのかも知れません。あるいは、多様な方々に多様な形で解釈いただくのがいいのかも知れません。

日本は幸福の国か?
 日本はサステナブルな国家だという話をしてきました。遅い決断によって、急激な変化を抑制してきた。だから、国家としては、世界一長生きしてきた。これは、言い換えれば、それぞれの時代の人々が犠牲になってきたことと捉えることもできます。世界に大きな変化が生じたとき、早い決断をした者は勝ち残れますが、古き良きものは捨て去られます。一方、決断が遅いと、人々は変化に耐えられないかも知れませんが、一方で、国家としては古き良きものをゆっくりと変えながら時代の変化に時間をかけて適応できます。つまり、人々の犠牲の結果として、国家は生き延びるわけです。皮肉なことに、人間は遺伝子の乗り物である(「利己的な遺伝子」リチャード・ドーキンス、紀伊国屋書店、二〇〇六年)のと似て、日本人は日本の持ち駒なのかも知れません。では、日本人は不幸な国民なのでしょうか。私はそうではないと思います。そこで、ここからは、日本人の幸せについて考えてみましょう。より詳しい内容は先月出版しました拙著 幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)に述べましたので、ご興味のある方は、そちらをご覧いただければ幸いです。
 五年前、私は、もの作り、サービス作り、町づくりなどの活動は、人々の幸せにつながっているべきだと考え、幸せのメカニズムの研究を行うことを思い立ちました。もともと、幸せの研究を行っている者など、世界中にいないのではないかと考えていました。しかし、調べてみると、世界ではかなり多くの学術的幸せ研究が行われています。
 幸せに関する学術研究は二十一世紀に入った頃から世界的に活発化しており、幸せに寄与する多くの要因が明確化されつつあります。人々の主観的幸福度を計測する手法として、人生満足尺度や感情的幸福が有効であることが知られており、人生満足尺度・感情的幸福と他の要因の相関を計測することにより幸福度と要因の関係を調べる研究が活発に行われています。なお、人生満足尺度は長いスパンの幸福度を、感情的幸福は感情に現れる短期スパンの幸福度を測定する指標です。

幸福の四つの因子
 幸福についての様々な研究が行われてきた結果、幸福に関連する多くの項目が見つかっています。年齢、性別、健康、信仰心、結婚、つながりの多様性、目標が明確であること、ボランティア活動をしていること、いざというときに頼れる人がいること、ものごとに感謝していること、社交的であること、目標を達成していることなどなど。しかし、それぞれはバラバラであり、要するに全体として幸せになるためにはどうすればいいかは不明でした。幸福学研究が体系化されていなかったのです。
 このため、筆者らは、幸福学の全体像を体系化するために幸福の因子分析を行いました。まず、多くの研究者らによって得られた、人生満足尺度・感情的幸福との相関の高い多数の要因のうち、心的要因のみを抽出しました。心的要因のみを対象とした理由の一つは、心的要因以外の幸福の要因は、外的ないしは身体的要因であるため、自分でコントロールできない場合が多々あるためです。たとえば、治安はいいか、直接民主制を取り入れているか、などの幸福要因は、人々の置かれた環境に左右されるため、地域活性化のための重要な指標ではあるものの、本研究で主題とする内的心理状態に直接は寄与しないと考えられます。二つ目の理由は、心的要因は非地位財(地位として相対的に比較することが困難なモノやコト)であることが多いのに対し、外的要因は地位財(金、モノ、地位のように相対的に比較できるモノやコト)である場合が多いためです。地位財による幸福は長続きしない幸福であるのに対し、自主性、自由、愛情などの非地位財は長続きする幸福であることが知られています。
筆者らは、次に、幸福に影響する要因二十九項目八十七個の質問を作成し、インターネットで千五百人の日本人に対してSD法(Semantic Differential法)によるアンケート調査を行いました。質問には、全く当てはまらない/ほとんど当てはまらない/あまり当てはまらない/どちらとも言えない/少し当てはまる/かなり当てはまる/非常によく当てはまる の七段階で答えてもらいました。
 さらに、アンケート結果を因子分析しました。計算にはSPSSというソフトウェアを用いました。その結果、幸せに影響する四つの心的因子を求めました。結果は以下の通りです。

第一因子 自己実現と成長:目標を達成したり、目指すべき目標を持ち、学習・成長していること
第二因子 つながりと感謝:多様な他者とのつながりを持ち、他人に感謝する傾向、他人に親切にする傾向が強いこと
第三因子 前向きと楽観:ポジティブ・前向きに物事を捉え、細かいことを気にしない傾向が強いこと
第四因子 独立とマイペース:自分の考えが明確で、人の目を気にしない傾向が強いこと

 さらに、千五百人の回答者をクラスター分析しました。その結果、幸福な者(同時に調査したディーナーの人生満足尺度が高い群(全体の二十%))は四つの因子すべてを満たしている傾向の高い群であることを明らかにしました。つまり、幸福の様相は人それぞれであるものの、全体としては幸福の四因子を満たした人が幸せな傾向を持つのです。
 よって、これら四つの因子を満たしているか否かによって、人々の幸福度の概略を計測できるのではないかと考えられます。従来、主観的幸福と単一の要因との関係の研究は少なからず行われてきたものの、幸福の全体像についての研究は皆無でした。これに対し、本研究の結果を用いれば、幸福という抽象概念を四つの代理変数により評価することが可能です。このため、これら四つの因子を満たすように暮らしていれば、幸せになれると考えられます。また、四つの指標を参考にすることによって、街づくり、モノづくり、コトづくりなどの活動が、どの程度、どのような幸福に寄与しているかを評価することができると考えられます。私も、四つの因子をベースに、幸せな日本や世界のために貢献していきたいと考え、様々な幸福学研究を行っています。

幸せカルタ
 お正月ですので、最後に幸せカルタを掲載しましょう。幸せの四つの因子や、その他、幸せに影響する世界中の研究結果を、慶應SDMの私の研究室の学生とともにカルタにしたものです。それぞれの詳しい説明や印刷版のカルタは私のホームページに掲載してあります。カルタの内容と対応する学術研究など、さらに詳しい内容を知りたい方は、そちらを参照していただければ幸いです。
 幸せカルタの使い方はいろいろです。たとえば、私たちは、幸せカルタを使ったワークショップで、幸せな街づくり、モノづくり、サービスづくりを推進する活動を行っています。ワークショップでは、幸せの四つの因子に従って、幸せな街・モノ・コトのアイデア出しをした後に、カルタを使った強制連想法(出てきた言葉から無理やり連想することによって斬新なアイデアを得る方法)によるアイデア出しを実施しています。日本や世界を幸せな社会にしていくための活動の一環です。
 カルタのもっといい使い方を思いついた方は、ぜひ教えてください。正月に家族でカルタ取りすれば、幸せの好循環ループが自然と身に付き、みんなで幸せになれるに違いありません!

表一 幸せカルタ
あ ありがとう。すべてみんながいたおかげ
い いざというときに頼れる人がいる
う うつや不安、減って安心、グループ活動
え エゴより笑顔
お お金は人のために使え
か 頑張らなくてもいいんだよ
き 偽善も積もれば善となる
く 具象より抽象
け 健康は精神・身体・社会の鑑
こ 子供たち、独立こそが親孝行
さ 左脳前頭葉部を発火させろ!
し 親切は人のためならず
す ステキな思い出
せ 成長は成功に勝る
そ そこそこで満足するのも悪くない
た 助け合う気持ちが地域を強くする
ち 地位財よりも非地位財
つ つながった人の数より多様性
て 哲学とビジョンを持つと世界が見える
と 隣の芝は青くない
な なんとかなる。ならなかったら、なんとかする
に 人間に生まれただけで運がいい
ぬ 脱ぎ捨てろ。安いプライド、虚栄心
ね 年齢を重ねてわかる有り難さ
の 望まぬ夢は叶わない
は バーチャルよりリアル
ひ ピーク・エンドは忘れない
ふ フォーカシング・イリュージョンの罠
へ 平和が一番。誰もが思うことなのに
ほ ボランティア、皆の幸せ願うこと
ま まじっすかー。幸せ半分、遺伝っすかー
み 見るだけじゃダメ。するから気持ちイイ
む 無理をせずあなたのペースでやればいい
め 目指せ、○○○!
も モノを買う刹那の満足繰り返す
や やってみよう。やり方がわからなくても
ゆ 許しなさい
よ 「よろしくね!」人に任せてマイペース
ら 楽観という達観
り 利他心は経験が育む
る ルーレットだよ、人生は
れ 冷淡より温和。冷徹より情熱
ろ 老婆は一日にして成らず
わ 忘れることを忘れるな!
を ヲタク・天才・達人を目指せ!
ん んふふ。結婚する私って、し・あ・わ・せ♥

慶應SDMヒューマンラボの幸せカルタのページはこちら

スポンサーサイト
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://takashimaeno.blog.fc2.com/tb.php/254-e34661ba

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

最新記事

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR