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3 慶應SDM用語辞典「システムの科学と哲学」

慶應SDMの基盤はシステムズエンジニアリングだが、近い学問分野として、システム科学やシステム理論がある。
システム科学はSystems Science。システム理論はSystem Theory。いずれも、そもそもシステムとは何で、どのような挙動を示すものか、ということ自体にフォーカスするものだ。SDMではこれらの考え方が意識して教えられることは(私の講義やゼミを除くと)少ないけれども、本来は、システムについて考えるときの基盤となるものと考えるべきであろう。

システム科学やシステム理論の古典的名著といわれているものに、たとえば以下の本がある。

「一般システム理論(General System Theory)」フォン・ベルタランフィー
「システムの科学(The Science of the Artificial)」ハーバート・A・サイモン
「一般システム思考入門(An Introduction to General Systems Thinking)」ジェラルド・M・ワインバーグ
「システム理論入門(Einfuhrung in die Systemtheorie)」ニクラス・ルーマン

SDMでは一般的にはこれらの講義に時間を割く方針を取っていないが、私が担当する科目「システムの科学と哲学」ではこれらにも触れている。また、私の著書(『思考脳力のつくり方―仕事と人生を革新する四つの思考法』(角川書店、2010年))を現在は教科書として配布しており、ここで私なりのシステム論を展開している。

図8for慶應出版0

私の四つの思考法に即して述べると、世界をとらえるとき、その方法には四つの段階がある。
図に示したように要素還元思考はものごとをシステムとはとらえず、要素に分けて考える。システム思考は、システムとして考えるとはいえ、システムの中を要素に分けて考えるわけだから実は要素還元思考の一種(要素還元思考のシステムへの拡張)である。もちろん、システム自体のことを考えるわけだから、システム全体のことを考えない要素還元思考とは異なるが、システム全体のことを理解するためにその中身を要素に分けて考えるという意味では要素還元論的なシステム理解なのである。
ここでいうポスト・システム思考とは、論理的・科学的世界理解の限界を理解し包含する世界観である。詳しくは『思考脳力のつくり方―仕事と人生を革新する四つの思考法』に述べたが、現代科学が遭遇した素粒子論や複雑系の科学に即して考えるなら、従来型の要素還元的科学観では捉えきれないような振る舞いが人間システムや社会システムには生じる。これを理解するためにはシステム思考やシステムズエンジニアリングを超えた領域が必要になる、というのがポスト・システム思考の主張である。なお、ポスト・システム思考とは私の造語である。ソフトシステムズ方法論という分野があるが、その興味はポスト・システム思考に近い。
システム思想も私の造語だが、ここは、論理自体の限界を理解し超越する境地である。ここがSDM学に含まれるかどうかは議論の分かれるところであるが、私自身は含まれると考える。あらゆるシステムのあらゆるデザインの問題をSDM学が包含するなら、当然、論理と感性を超越した議論も含むはずだからである。ここは哲学・思想の領域である。

この枠組の中にシステムの科学と哲学を位置づけるなら、システムの科学はシステム思想以外の三つのレイヤーに、システムの哲学は四つのすべてのレイヤーに含まれるというべきであろう。

なお、システムの科学という時、複雑系の科学のみならず、近年話題となっているスモールワールド理論、ロングテール現象、集合知の議論、ニューラルネットワークと認知科学・脳神経科学なども含まれると考えるべきであろう。
システムの哲学には、あらゆる哲学が本来含まれると考えるべきであろうが、現時点で慶應SDMで考慮されている哲学的議論は、応用倫理学、公共哲学、心の哲学、現象学などの一部に限られる。倫理学は、「我々は何をなすべきか」を考える際の基礎になるし、応用倫理学や公共哲学はまさにその議論を実践する場である。心の哲学と現象学はもともと私自身が興味を持っていた意識・クオリアの議論に関連する。慶應SDMのメイントピックではないが、私の著書『脳はなぜ「心」を作ったのか―「私」の謎を解く受動意識仮説』(ちくま文庫、2010年)、『脳の中の「私」はなぜ見つからないのか―ロボティクス研究者が見た脳と心の思想史』(技術評論社、2007年)に詳しいの興味のある方にはご一読いただきたい。システム思想に通じる考えを述べている。



要素還元思考
要素に分けて考える
論理的・分析的世界理解
木を見て森を見ず


システム思考
システムとして考える
論理的・分析的世界理解
木を見て森も見る
MECE、ロジックツリー、ループ図、ネットワーク図、マトリクス図、Vモデル、分解と統合、多目的最適化、解ける問題にモデリング、客観的世界観


ポスト・システム思考
システムを複雑系として考える
論理的・分析的世界理解の限界を論理的に理解する
「木を見て森も見ている自分」も見る
論理の限界の理解(複雑系としての理解、哲学としての理解、二項対立の解消)、主観・客観の非分離、自他非分離、科学とアートの非分離、最適化から満足化へ、合意からアコモデーションへ


システム思想
論理と感性を超えてすべてのシステムのつながりに納得する
論理的・分析的世界理解の限界を論理的に理解することの限界を理解し超越する
「木を見て森も見ている自分」も見る自分を体感し受け入れる
論理を超越する、解決することを超越する、あらゆる境界を超越、システムは自己であり同時に自己でないことをわかる
感じる、受け入れる、満足する、楽しむ、動じない、ありのまま、なすがまま

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プロフィール

Takashi Maeno

Author:Takashi Maeno
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)ヒューマンシステムデザイン研究室教授
慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務
前野隆司

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